脳は進化するほど処理が遅くなる?
最近、脳についての文献を読み込んでいて 興味深い文献を見つけた.それが脳の処理速度は進化するほど遅くなる可能性を提示するItoh et al. (2022) である.
人間の脳は、他の種より進化していると思われがちである. この時,脳は大きいほど良いと考えられがちだが重要なのはサイズではなく神経細胞の数である. そして、神経細胞の数が多いと言う事は単純に考えればここの神経細胞が入力を受け取り、出力を行う回数が増えるので処理が遅くなるはずである というのがこの文献の提示する問いである.
私はこの問いを読んで、目から鱗が落ちる思いであった. こんなシンプルなことに、今まで気づいていなかったと言う点で非常に勉強になる文献である.
そしてItoh et al. (2022) では,この問いを実証するために 4種類の霊長類ヒト、チンパンジー、アカゲザル、コモンマーモセットで音への反応速度を比較した実験を行ったところ,ヒトの反応が一番遅かったとのことだ.
大多数のヒトは音声つまり音を介して言語情報をやりとりしている. そして、言語情報と言うのは、単純な音よりも複雑な構造をしている. つまり脳の処理速度が低下したことで複雑な構造を分析できる能力を有したのではないかと,この文献は示唆している.
これは、一般的な脳の進化のイメージを変えるとともにヒトの 言語能力に対して別の観点から考察を加えられると言う点で非常に有意義な研究と言えるだろう. とても面白い。
参考文献
- Itoh, K., Konoike, N., Nejime, M., Iwaoki, H., Igarashi, H., Hirata, S., & Nakamura, K. (2022). Cerebral cortical processing time is elongated in human brain evolution. Scientific Reports, 12(1), 1103.