脳を情報処理装置に見立て脳を理解する.


今までの投稿で言語の神経学的なアプローチを用いた研究について紹介をしてきたが, これは基本的に脳の活動状況を EEG や fMRI で 観察し、言語活動を推定するいわばボトムアップ的な研究方法であった.

他方,トップダウン的な発想で研究を行う計算論的神経科学 (Computational neuroscience)という領域が存在する.

この領域では脳を情報処理のための装置として捉えて,その機能を調べる.脳が行う処理は演算過程として考えられ,その原理や数理モデル,それを実現するための生物学的な基盤を検討するアプローチを取る.

現在は神経細胞レベルのミクロなレベルの研究は進歩しているが, それが集団となったマクロな研究は未解明である. この点について計算論的神経科学は新しい方向からアプローチできる可能性がある.

Kawasaki (2022) に秀逸な表現があったため引用したい.

物理学においては,マクロな視点をもった熱力学が確立され,それを補完・増強するためにミクロな視点をもった量子力学である統計熱力学が発展しました.気体に含まれる分子を観察するとまったくランダムに動いているようにみえますが,熱力学によればエントロピーを最大にする分布に従って運動しているといいます.マクロからミクロへと迫った物理学に対して,脳科学では逆方向の追及がなされています.脳活動については,1 つの神経細胞の活動というミクロな「量子論」は確立していますが,それらが集団となった場合の振る舞いという,マクロな「熱力学」に相当する機序は解明されていません.現時点では,個々の神経細胞をいくら詳細に調べても,全体として何が起こっているかを知ることはできません.脳科学でもエントロピー最大化のようなマクロな視点をもった,別次元の法則を見い出す必要があるのでしょう.
(Kawasaki 2022)

参考文献

  • 川﨑康弘. (2022). 計算論的神経科学とは何でしょう. 心身医学, 62(1), 16-17.

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