複雑な手話の形態素構造
普通の日常的な会話で話すと驚かれることが多いが, 言語学は手話も研究対象に含めている. 音声言語とは異なる点ももちろんあるが, 共通している部分も観察できる. こんなことを書いているが, 私自身, 手話, もしくは手話の研究に対して知見が深いかと言うと, そんな事は無い. なので, 手話研究に関する論文を読んでみた. Meir and Sandler (2005) は手話の二つの対照的な形態学的構造である逐次的な形態と同時的な形態について言及している.
我々の音声言語は, 以前見たように音声となる際に線形化され, 情報が順次に送信もしくは受信されるためその処理は逐次的な処理となる. 一方, 手話は音声言語ではなく視覚言語となるため, 複数の要素を同時に表現することが可能になる. 例えば, 手の形, 位置, 動きなど複数の要素を一度にまとめて送受信できることは音声言語と大きく違う独自のシステムであり, 手話形態論の最も顕著な特徴とされる.
これは音声と視覚という異なるモダリティから生じる違いだと考えられるが, 音声言語だけを見ていた時には気づくことができない新たな視点で物事を考える機会となる.
参考文献
- Aronoff, M., Meir, I., & Sandler, W. (2005). The paradox of sign language morphology. Language, 81(2), 301.