脳を如何に例えるか
最近の研究では, 脳をパソコンに例えることが多い. 例えば, メモリは短期記憶, ハードディスクは長期記憶, プロセッサは思考や演算に関係するような表現を使うことが多い. これはコンピュータが身近に存在している我々の時代では, 比較的ピンときやすい例えではあるが, Tanaka (2009)はコンピュータを必ずしも脳を理解するための比喩として用いることが必要かに対して疑義を提示している.
Tanaka (2009)によれば, 脳はその時代の最先端技術に例えられると言う指摘をしている.
例えば, 19世紀には蒸気機関と脳のアナロジーが議論されたし, 20世紀初頭には脳の電話線の配線の例えも議論された. 人間はどうもその時代にもっとも進んだ工学に自身の脳をなぞらえる傾向にあるらしい.
Tanaka (2009)
Tanaka (2009)の指摘から, 脳のメタファーは常に時代の最先端技術に影響される可能性がある. このアプローチは一見便利だが, 必ずしも脳の全体像を正確に捉えるとは限らないし, 技術の進展に伴い, 新たなメタファーが用いられる可能性もある.
自分の生きる時代性の無意識のバイアスというものがあることには留意しなくてはならない. (難しいことであるが)
参考文献
- 田中宏和. (2009). 計算論的神経科学のすすめ: 脳機能の理解に向けた最適化理論のアプローチ. 物性研究, 93(2), 143-229.