最適化装置としての脳
神経化学的な言語学はBrocaとWernickeの言語野の発見以降進歩し, 当時はその機能の局在性が想定されていたが, 局在性が過大評価されていた面もあり近年は総体としての脳のネットワークが重要視されつつある.
Tanaka (2009)によれば, 脳は最適化装置として機能することが示されている. この研究では, 脳が行うべき計算課題とその解決策を数学的に記述する最適化アプローチを導入している. 具体的には, 躍度最小モデル, 最小時間モデル, 最適フィードバックモデル, ポピュレーションコーディングに基づく運動適応モデルなどが紹介され, これらが心理物理実験の結果を説明できることが示されている.
例えば, 到達運動における手先の軌道や速度プロファイルは, 脳が最適化計算を行っている結果と解釈できる. 従来の電気生理学や病理学的研究は, 脳の特定の部位が特定の機能を担っていることを示していたが, これらの手法では脳全体の計算原理を解明するには不十分であった. 田中の研究は, このギャップを埋める新しい視点を提供している.
本論文では, 従来の研究で明らかになっていた脳の機能分化に対して, 脳全体の計算原理を理解するために最適化アプローチを用いることで, 新たな視点を提供しており総体としての脳のネットワーク研究に光を当てることができるかもしれない.
参考文献
- 田中宏和. (2009). 計算論的神経科学のすすめ: 脳機能の理解に向けた最適化理論のアプローチ. 物性研究, 93(2), 143-229.