2種類のTypeの文法への批判への批判


先日の投稿でNaritaはMiyagawa et al. (2013)の統合理論(Integration Theory)に対して問題提起を行なっていた.

それに対して同紙上討論で Ojima 達はその問題提起に対する反論を述べている.

それぞれを簡単にまとめてみたい.

主張 1: 併合理論と統合理論の対立

  • 主張: 言語進化において併合(Merge)理論の単一演算による統一性が重要であり, TypeLとTypeE文法の分離は理論を複雑にし, オッカムの剃刀に反する.
  • 反論: Miyagawaらは, 言語進化をダーウィン的な外適応の過程として説明し, TypeLとTypeEの分離は他の用途に役立つ既存のシステムが言語に転用された結果とする. これにより, 併合理論の単一性を維持しつつも, 人間言語の進化的背景を説明できる.

主張 2: 有限状態文法の限界

  • 主張: 人間言語の中核には文脈自由文法の生成力が必要であり, TypeL文法だけでは不十分であるとする. 例として, 日本語の「入れ子型依存関係」や英語の「anti-missile」に見られるような構造が挙げられる.
  • 反論: Miyagawaらは, TypeLとTypeEシステムが組み合わさることで有限状態文法を超える構造が生成されると説明し, 単独のTypeLでは再帰的な入れ子構造は生じないと反論する. さらに, anti-missileの例は, より適切な分析が可能であり, その分析では長距離依存関係が生じないため, 有限状態文法で記述可能であるとする.

主張 3: 進化的対応の不明確さ

  • 主張: TypeLとTypeE文法が動物のコミュニケーションに対応するとするMiyagawaらの主張には, 進化的な根拠が不十分であり, 証拠が不足している.
  • 反論: Miyagawaらは, TypeLとTypeEシステムが言語学的な一致(agreement)や移動(movement)といったメカニズムによって統合されていると説明している. 成田らは, このメカニズムを無視し, 単純に2つのシステムが結びついていると誤解している. 今後の研究課題として, 動物の脳内でこれらのメカニズムがどのように機能しているかを解明する必要があると主張している.

主張 4: 有限状態文法の組み合わせの誤り

  • 主張: 2つの有限状態文法を組み合わせて文脈自由文法以上の生成力を得るという主張は, 数学的根拠に欠け, 循環論法に陥っている.
  • 反論: Miyagawaらは, TypeLとTypeEシステムが持つ制約により, それぞれ単独では階層を作らないが, 統合されることで有限状態文法内での併合が可能になり, 再帰的な構造を生成できると反論する.

個人的にはこの中でも文脈自由文法と有限状態文法をめぐる問いが非常に興味深いと感じている. そもそものチョムスキーの最初の大きな功績としてチョムスキー階層を提示したことが挙げられるが, その最初期の根本から問い直すような発想は確かに一考の価値があるように思える.

参考文献

  • 尾島司郎, 宮川繁, 岡ノ谷一夫, 成田広樹, 飯島和樹, & 酒井邦嘉. (2014). 紙上討論 人間以外の動物に文法は使えるのか?. BRAIN and NERVE, 66(3), 273-281.

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