発話器官は存在しないのか?


Sapir (1921) を引き続き読み進めている. そこでさらに興味深い一文に出会った.

We must not be misled by the mere term. There are, properly speaking, no organs of speech; there are only organs that are incidentally useful in the production of speech sounds.

(Sapir, 1921)

単なる用語に惑わされてはならない. 厳密に言えば, 発話器官は存在しない. 発声に偶然に有用な器官があるに過ぎない.

(ChatGPT訳)

この一文は非常に考えさせられる. 確かに, 言語学を学んでいる人であれば, 口蓋や唇, 歯といった器官を発話器官と無意識に捉えがちであるが, これらは元々別の目的を持って発達した. 例えば, 歯は食べ物を効率的に咀嚼し, 消化を助けるために存在しており, 言語発話のために進化したものではない. これは, 以前の投稿で述べた前適応 (preadaptation) の一例といえる.

Sapir はこの点をもって, 言語が生得的ではないという議論を展開しているが, その点については慎重に考えたい. しかし, 少なくとも「発話器官は存在しない」という主張については, 個人的には十分に受け入れ可能である.

参考文献

  • Sapir, E. (1921). An introduction to the study of speech. Language, 1, 15.

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