脳の神経活動の血流変化(血中酸素濃度)のモデリング
近年の脳研究において、機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging: fMRI)の利用が一般的となっている. fMRIにおける解析では、脳活動に伴う血流変化を統計的に解析するが、その際には、血流が一定のパターンで変化すると仮定する. この仮定のもとで、実際の血流変化を観察し、仮定されたモデルと比較する. このモデルとして代表的なものが「ヘモダイナミックレスポンス関数」(Hemodynamic Response Function: HRF)である.
HRFは、BOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)効果として知られる現象をモデル化している. BOLD効果は、神経活動に伴う血中酸素濃度の変化を反映し、その結果として得られる信号(BOLD信号)を解析対象とする. BOLD信号は以下のような経過をたどることが知られている.
- 初期段階(0秒〜5〜6秒)
- 神経活動が開始すると、脳への血流が増加する.
- 約5〜6秒後にBOLD信号がピークに達し、最も強い信号が観測される.
- 下降段階(5〜6秒〜10〜12秒)
- ピークを過ぎると、BOLD信号は減少し、ベースライン(基準値)に向かって下がっていく.
- この過程で、一時的に信号がマイナス方向に落ち込む「アンダーシュート」が観察される.
- 回復段階(10〜12秒〜約15秒)
- アンダーシュート後、BOLD信号は約15秒かけてベースラインに戻る.
- 休止段階(15秒以降)
- 神経活動が終了すると、BOLD信号は安定し、次の神経活動が始まるまでベースラインを維持する.
このように、HRFはBOLD信号の時間的な変化をモデル化することで、脳活動と血流の関係を明らかにする重要な役割を果たしている.
参考文献
- 横山悟. (2010). 脳からの言語研究入門: 最新の知見から研究方法まで.
- Rangaprakash, D., Tadayonnejad, R., Deshpande, G., O’Neill, J., & Feusner, J. D. (2021). FMRI hemodynamic response function (HRF) as a novel marker of brain function: applications for understanding obsessive-compulsive disorder pathology and treatment response. Brain imaging and behavior, 15, 1622-1640.