制約を設けるアプローチ
ヒトの言語活動は膨大な単語数を伴うにもかかわらず, 幼児は驚くほど短い期間で語彙を蓄えていく. Morita (2024)は, この背景として「語彙を制約する」考え方の重要性を指摘している. 中でも, 形態論的な派生規則を活用する手法は, 単語数の膨張を防ぎながら多様な語を生成する鍵となるアプローチである.
この方法の大きな利点は, 語彙リストに含める項目数を大幅に削減できる点にある. 例えば, ある基本語と派生パターンさえ把握していれば, 追加の操作を行わなくても関連する複雑語を作り出すことが可能である. それによって, 単純語を一つ覚えるだけで派生形まで扱えるため, 必要以上に個別の単語を記憶する必要がない. さらに, 派生の過程で特別な装置を導入せず, 一般的な形態的メカニズムを使えば, 認知的負担や学習負荷をさらに軽減することもできる.
派生規則を軸にした語彙制約アプローチは, 幼児が限られた経験から高速に単語を獲得する仕組みを明らかにする上で注目されている. 語彙を増やす際の無駄を省き, 最小限の情報から多様な表現を生み出すという点で, 非常に効率的な戦略と言えるのである. そして, このメカニズムの解明に生成文法の理論も貢献し得る可能性があると考えられる.
参考文献
- 森田, 順也. (2024). 分散形態論に基づく語形成の分析. 開拓社.