比喩表現のBlending


以前の投稿で, Blendingというものを見た. これは簡単にまとめれば複数の要素から新たな要素を掛け合わせる, 認知言語的な発想である. 今回はそのBlendingを用いて比喩表現がどのように実現されるかを見てみたい.

Fauconnier and Turner (1998)はいくつか例を挙げているが, その中でも「墓穴を掘る」(Digging Your Own Grave)という例を見る.

Blendingで「墓穴を掘る」を考えてみると, まず, この比喩は従来のメタファー理論では説明困難な構造的矛盾を抱えていることが分かる. 入力のソース(墓掘り)では「死」が「墓掘り」の原因だが, ターゲット(失敗)では「行動」が「失敗」の原因であり, 因果関係が逆転しているのだ. 他方, Blending理論では, この矛盾は, 両入力空間とは別に構築される「ブレンデッドスペース」によって解決できると考える. このブレンド空間は, ソースから「墓」の具体的なイメージを, ターゲットから「因果関係」や「意図性」の構造を持つ. その結果, ブレンド空間内では「掘る行為が死(=失敗)を引き起こす」という, 入力にはない独自の「創発的構造」が生まれ, この比喩特有の推論(掘るほど破滅に近づく)が可能になる.

このように, 従来の理論では, 説明が難しいような事象も, このBlendingの発想を用いれば適切に捉えられるかもしれない.

参考文献

  • Fauconnier, G., & Turner, M. (1998). Conceptual integration networks. Cognitive science, 22(2), 133-187.

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