分散形態論とフェイズ


以前の投稿でDistributed Morphology(分散形態論)は統語論的な発想であるとまとめた. 簡単に言えば, 単語自体も複数の要素が組み合わさり, 階層的な構造を成して構成されるという発想である. しかし, そうであるならば単語の算出自体も統語論的な理論が適用されると考える方が自然である. 今回着目したいのは, 現在の主要な統語論的な理論のミニマリストプログラムに基づくPhase Theory(フェイズ理論)的な発想である.

文形成の過程でのフェイズ理論は, 統語的な計算処理は, 文全体が完成してから一括で行われるのではなく, フェイズと呼ばれる特定の統語単位が完成するごとに, その内部領域が音声部門と意味解釈部門へと送られて(Spell-Out), それ以降は外部からの操作を受け付けなくなるという理論である.

これを単語単位で適用させると考えれば, 単語という個別の単位自体にも, 周期的にSpell-Outが発生し, 音声部門と意味解釈部門に送られていると考えられる. この発想を踏まえれば, 単語に対して説明可能な部分もあれば, 新たに議論の種となるような部分もあるであろう. しかし, 統語論が単語に及ぶと考える分散形態論にとっては避けては通れない議論になるはずだ.

参考文献

  • De Belder, M., & Don, J. (2022). Distributed Morphology: An oratio pro domo. Nederlandse taalkunde, 27(1), 75-104.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です