猿の鳴き声
言語学は基本的にヒトの言語を対象に研究を進めている. 他方で, 進化言語学などの進化上のストーリーを考える際には, ヒトだけではなく, 他の動物との対照的な研究を用いることで, ヒトの言語の特異性などを考える必要がある. 他の動物の言語システムを体系的に研究し, それをヒトと比較可能な形で扱っていく必要があるということだろう.
Schlenker et al. (2016) はサルの研究方法について, 次のようにまとめている.
The Formal ApproachHow should monkey calls be studied? We argue that a key idea should be borrowed from contemporary linguistics: monkey call sequences should be studied as formal languages with syntactic rules (pertaining to their form) and semantic rules (pertaining to their meaning).
Schlenker et al. (2016), p. 894
サルの鳴き声はどのように研究されるべきでしょうか. 私たちは, 現代言語学から重要なアイデアを借用すべきだと主張します. すなわち, サルの鳴き声の連続は, 統語規則(その形式に関する)と意味規則(その意味に関する)を持つ形式言語として研究されるべきだ, ということです.
(Gemini訳)
端的に言えば, 現代言語学の主要部門ともいえる統語論と意味論をサルの鳴き声の研究にも応用しようというわけだ. 私はサルなどの動物の鳴き声にはあまり詳しくはないが, もし本当にヒトの言語を対象に発達してきた統語論などが, 他の動物の研究にも適用可能であるならば, それは冒頭で述べた他の動物の言語システムを体系的に記述することが可能であるし, なおかつヒトと比較可能な形で扱うことができるという点で非常に画期的であると言えるだろう.
参考文献
- Schlenker, P., Chemla, E., & Zuberbühler, K. (2016). What do monkey calls mean?. Trends in Cognitive Sciences, 20(12), 894-904.