文が先行し, 後に語彙に分岐した?
以前の投稿で, 原型言語 (Protolanguage) という概念, 加えてその概念に対しての語彙的原型言語説(Lexical Protolanguage Hypothesis)というものを見た. 簡単にまとめれば人間の言語は離散的な単語に相当するもの(特に語彙範疇に相当するもの)が存在しており, その単語を組み合わせるようにして言語が発達したという仮説である.
他方, 原型言語の研究にはもう一つの一語文的 (holophrastic) であったとする立場があることについても言及した. 今回はそちらについてまとめたい.
holistic protolanguageとは, 言語進化の初期段階において, 文法的な構造や規則を持たず, 全体として意味を持つまとまりのある発話単位が使用される言語体系である. このモデルでは, プロトランゲージは一語文的 (holophrastic)な発話から構成され, これらの発話は後に音声の類似性や意味の共有に基づき分解され, 単語や形態素へと発展するとされる.
参考文献
- 遊佐典昭(編),杉崎鉱司,小野 創,藤田耕司,田中伸一,池内正幸,谷 明信,尾崎久男,米倉 綽. (シリーズ監修 西原哲雄, 福田稔, 早瀬尚子, 谷口一美). (2018). 言語の獲得・進化・変化―心理言語学,進化言語学,歴史言語学 (言語研究と言語学の進展シリーズ3). 開拓社.
- Tallerman, M. (2007). Did our ancestors speak a holistic protolanguage?. Lingua, 117(3), 579-604.