併合自体の発達
ミニマリストプログラムにより, 言語システムの余剰性が極限まで削ぎ落とされた結果, 現在はMerge(併合)が言語能力の根幹であるという前提で研究が進められている.
さらにその中でFujita (2012)の運動制御仮説などが検討されているが, その主張に対してTanaka (2018)が興味深い指摘をしてい る点を引用する.
そこで次に問題になるのが, 回帰的併合の創発に関わる連続性である. 4.6節で導入された「運動制御起源仮説」は, 行動→言語の前適応/外適応という観点からも, 単純併合→ポット型併合→サブアセンプリ型併合という発達の観点からも, 確かに連続性を備えている. ただ, 行動文法であれ言語併合であれ, なぜこのような発達段階を踏んだのか, 併合の発達それ自体がどこから来たのか, という問題は未だ残されている.
(Tanaka, 2018)
これは非常に重要な指摘である. 以前の投稿でもMergeの段階的な進化について触れたが, Merge自体の前駆体が何か, もしくはMerge自体がどのように発達したのかも重要な研究対象である一方, 「なぜそのように発達したのか」という問いは進化という観点で非常に重要な研究視点である.
この問いに取り組む研究は未踏の領域であり, 理論的及び実証的研究を通じて回帰的併合の進化の解明が必要である. こうした探求は言語の普遍性や発生学的基盤の理解を深めるだけでなく, 人間独自の認知/行動の発展過程を解明する鍵となるであろう.
参考文献
- 藤田, 岡ノ谷, & 浅田. (2012). 進化言語学の構築: 新しい人間科学を目指して.
- 遊佐典昭(編),杉崎鉱司,小野 創,藤田耕司,田中伸一,池内正幸,谷 明信,尾崎久男,米倉 綽. (シリーズ監修 西原哲雄, 福田稔, 早瀬尚子, 谷口一美). (2018). 言語の獲得・進化・変化―心理言語学,進化言語学,歴史言語学 (言語研究と言語学の進展シリーズ3). 開拓社.