音韻の制約
ライマンの法則という有名な法則が存在する. この法則のように, 人間の言語における音声および音韻の使用には, 何らかの法則が働いている. その中でも, より普遍的に説明可能なメカニズムとして, Obligatory Contour Principle: OCPというものが存在する. これは, 言語の音声および音韻の表現において, 同一または類似の要素の隣接を回避するために, 要素の削除, 融合, 音の挿入などの修正が行われることを説明する.
例えば, 英語の音声を例に挙げて考えてみよう. 英語では, (1)のようにcoronal sibilants(舌頂音によるsの音)の間に/ɪ/が挿入される.
(1)
a. fox /fɒks/ → foxes /fɒksɪz/
b. tax /tæks/ → taxes /tæksɪz/
(Yip, 1988)
これは, /ɪ/の前後に存在するcoronal sibilantsという同一の要素の隣接を回避している. このような音韻的変化は他にも存在し, 音声だけでなく, トーンに対しても修正が加えられる場合がある. このように, Obligatory Contour Principleは, 言語の音韻構造を解明する上で非常に興味深い原理である.
参考文献
- 田中伸一. (2024). 言語にも化石はある: 音韻論で生物・進化言語学に貢献する方法. 日本音韻論学会 (編), 現代音韻論の動向: 日本音韻論学会20周年記念論文集. 開拓社.
- Yip, M. (1988). The Obligatory Contour Principle and phonological rules: A loss of identity. Linguistic inquiry, 19(1), 65-100.