統語情報をもとにした動詞習得の仮説。
言語はさまざまな品詞に分類される. 例えば, 名詞, 動詞, 形容詞, 前置詞などである.
その中でも動詞に関する言語習得の仮説として, 統語的ブートストラッピング (syntactic bootstrapping) 仮説が提唱されている.
この仮説は, 幼児が動詞を習得する際に, その動詞が用いられている文の統語構造を手がかりに, 動詞の意味を獲得しているとするものである.
例えば, 項の数や語順といった構文的特徴は, 動詞句における下位範疇化 (subcategorization) に関わる情報として捉えられる.これらの構文的手がかりに基づいて, 幼児は意味の分節化や文法化を行い, 動詞の意味を学習していくとされる.
しかし, この仮説に関する研究は, 研究者の理論的立場や方法論によって着眼点が異なっており, 一貫した見解は得られていない.
特に論争の的となっているのが, 言語習得における生得説 (nativism) と学習説 (empiricism) の対立である.
言語獲得におけるこの二元論は, 現代言語学において最も根本的かつ議論の多い問題の一つであり, 明確な結論を出すことは依然として困難である.
とはいえ, このように理論的立場が分かれた多様な研究が進められることは, 言語習得の理解を深めるうえで重要である.
断片的に見える研究の蓄積が, 最終的には人間の言語能力に関する包括的な理解へとつながっていくであろう.
参考文献
- 畠山雄二. (2017). 最新理論言語学用語事典. EBSCO eBooks.
- 姜露. (2013). 子どもの項構造知識―生得か? 学習か?―. 心理学評論, 56(4), 489-505.