生成文法とは異なるモデル
人の言語のモデル化というのは非常に難易度の高い作業であり, その過程でさまざまなモデルが提案される. 用法基盤モデル(Usage-Based Model)もその一つである. 本稿は, この用法基盤モデルをYoshikawa(2010)の内容に準拠して学んだ記録である.
生成文法とは異なるモデルとして提唱される用法基盤モデルは, 人間の言語が具体的な使用経験に基づいて獲得されることを前提とする. 用法基盤モデル(UBM)は, 言語知識を抽象的な規則ではなく, 実際に用いられる具体的な表現の集合として捉える. このモデルでは, 名詞の複数形などの一般規則も具体的な言語形態から抽出されるスキーマとして理解される. たとえば, “toes”や”walls”といった具体例を通して, 類似するパターンを見出し, そこから”複数形”という抽象的な知識が形成される.
UBMの中心にあるのは”定着(entrenchment)”というプロセスであり, 頻繁に繰り返される言語パターンが徐々に確固たるユニット(単位)として固定されていく. これにより, スキーマが生成され, それに基づいて新たな表現が生成される. ただし, モデルはスキーマの抽出初期や運用において課題を抱えている.具体的には, パターンが具体事象に内在するとの前提を置きながら, どのようにして類似性を判断し, その同一性を見いだすかが不明瞭である. 言い換えれば, パターン抽出の前にパターンの存在を仮定してしまっている. これにより, 抽出過程の初期段階に論理的な矛盾が生じてしまう.
以上のような形で, 用法基盤モデルは具体的な言語データに基づくアプローチを通じて, 言語習得を説明しようと試みる.
参考文献
- 吉川正人 (2010). 「用法基盤」から「事例基盤」へ: 妥当な言語記憶のモデルを求めて. 言語処理学会第16回年次大会発表論文集, 962–965. https://www.anlp.jp/proceedings/annualmeeting/2010/pdfdir/E4-4.pdf