遺伝子による言語基盤の可能性
人間の言語能力が生得的であるのならば, 遺伝子的にその能力を引き継いでいると理論的には考えられる. ならば、次の問いとしてそういった言語能力に関する遺伝子は存在しているのだろうかという問いが立てられる.
断定的に言語能力のための遺伝子と判断できるわけではないが, その候補として有名なのものが FOXP2 と呼ばれる遺伝子である.
これは KE 家系というある家系の研究の報告から見つかったものである.
この家系では 3 世代に渡って37 名中 15 名に言語障害が認められるという特殊なケースが報告された.具体的な障害の内容は語尾活用 (時制や名詞の複数形)ができないという障害であった.
この家系に対して研究を進めたところ,染色体 7q 領域に存在している遺伝子に変異が確認され,このFOXP2 遺伝子が言語能力に関与しているのではないかという可能性が示唆された.
もしFOXP2 遺伝子が言語能力に関与しているというならば, それは言語能力の生得性の証左の1つになるであろう. 他方,この結果を鑑みる限りでは言語能力の中でも語尾活用に関与している可能性が高く,それを得的な言語能力と呼んで良いかは検討の余地があるであろう.
参考文献
- 原裕子. (2005). 新しい言語科学の動き. 学術の動向, 10(1), 76-77.
- 藤田, 岡ノ谷, & 浅田. (2012). 進化言語学の構築: 新しい人間科学を目指して.