人間の言語獲得を可能にする理論


人間も動物の一種である以上, 進化の問題から逃れられない. とりわけ, 言語能力は人間固有のものと考えられているが, 進化的な観点から考えると, その固有性においても人間と他の動物の間には連続的な接続を考える方が理にかなっている. この発想から, Miyagawa et al. (2013)は統合理論(Integration Theory)という仮説を提示している. この仮説は, 人間の言語能力(ここでは文法能力を主に指す)が, 人間以外の動物にも見られる2つのシステムが組み合わさったことで発現したと考える.

その際の2つのシステムは, TypeEシステムとTypeLシステムと呼ばれる. TypeEは表現型(Expressive)を意味し, 鳥の歌に見られるようなシステムである. 鳥の歌は縄張りの主張や求愛など, 全体として「表現的」な機能を果たす. これは中身が多少異なっても伝えるメッセージの内容は大まかに変わらないという特徴がある. 例えば, 求愛のメッセージが縄張り主張のメッセージに変わることはない.

一方, TypeLは語彙型(Lexical)を意味し, ミツバチのダンスに見られるような, 要素を区切るシステムである. このシステムは, 要素を組み合わせることで内容を変化させるという特徴がある. 例えば, ミツバチのダンスは太陽の方角や踊り方(飛行方法)の組み合わせによって意味が変わる.

統合理論(Integration Theory)は, この2種類のシステムが組み合わさったことで, 人間固有の言語能力が発現したと考える理論である. この発想は, 冒頭で述べた進化的な観点からの連続性を考慮することができる.

参考文献

  • Miyagawa, S., Berwick, R. C., & Okanoya, K. (2013). The emergence of hierarchical structure in human language. Frontiers in psychology, 4, 40804.
  • 尾島司郎, 宮川繁, 岡ノ谷一夫, 成田広樹, 飯島和樹, & 酒井邦嘉. (2014). 紙上討論 人間以外の動物に文法は使えるのか?. BRAIN and NERVE, 66(3), 273-281.

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