音韻プロセスについて考察する.
以前の投稿で, Fujita (2012) の運動制御起源仮説をまとめた. この仮説は, ヒトとチンパンジーを比較した行動文法の研究に基づいている. 特に, ヒトの幼児のみが再帰的な操作を行う能力を持つことが確認され, その道具操作能力が人間の言語能力, 特に併合 (Merge) の前駆体であると主張している. 私はこの点に興味を持ち, 主に文法能力に焦点を当てて学んできたが, 音韻プロセスにこの仮説を適用した興味深い主張に触れた.
Tanaka (2024) は, 音声学における硬口蓋化 (palatalization) や唇音化 (labialization) を用いて, この運動制御起源仮説を音声的観点から検証している. 硬口蓋化や唇音化は, 音声学の中でも非常に興味深い現象であるが, 私が特に興味を持ったのは以下の一節である.
以上のように, 大進化に関わる音韻研究は, 言語の創発について, 現存する「結果」としての音韻現象から前駆体としての「原因」に遡る研究である. この「結果」こそが, 実は存在しないと見なされた「化石」であり, 然るべき「理論」と周辺諸分野との「連携」を駆使して, 何が音韻の「化石」であるかを見極めれば, 言語の起源に迫ることができるのである.
(Tanaka, 2024)
この論文は, 言語に化石が残らないとされている主張に対し, 音韻的な観点から異を唱えており, 非常に興味深い学びとなった.
参考文献
- Tanaka, S. (2024). 言語にも化石はある: 音韻論で生物・進化言語学に貢献する方法. 日本音韻論学会 (Ed.), 現代音韻論の動向: 日本音韻論学会20周年記念論文集. 開拓社.
- 藤田, 岡ノ谷, & 浅田. (2012). 進化言語学の構築: 新しい人間科学を目指して.