統語論における抽象的な構造仮定の意義を考察する.
前回の投稿では, Chomsky以前の言語学と彼が指摘した「研究は説明原理を発見する必要がある」という主張について述べた. 本稿では, この文脈に基づき, 生成文法が果たした意義を考えてみたい.
Chomskyは生成文法の初期において, 言語に表層構造と深層構造を仮定した. すなわち, 現実に観察可能な構造に加えて, 抽象的で観察不可能な構造を新たに設定したのである. この構造を仮定することで, それまでのアメリカ構造主義的な観察と記述に基づく研究から, 真に「説明原理を発見する」ことを目指す言語学が構築可能になったと言える.
この重要性を理解するため, Hatakeyama (2019)を引用したい.
重要なのは, 統語論において, 直接観察可能な構造とは別の抽象的な構造が仮定され, それにより統語論が飛躍的に発展する可能性が示されたことである.
(Hatakeyama, 2019)
このような抽象的構造の仮定に基づく生成文法は, その後の統語論の発展に大きな影響を与えた. もちろん, この理論は以降の様々な論争や批判を受け, 初期の形態から大きく修正されていったが, 抽象的な構造を仮定するという思想の意義は極めて大きいと言えるだろう.
参考文献
- 畠山雄二.(2019). 理論言語学史