人間言語の原型
以前の投稿でミニマリスト・プログラムにおけるMergeの発案により, 人間の言語を進化学的な観点から考察するアプローチが可能になったことを論じた.
このミニマリスト・プログラムとは異なる提案として, Bickerton (1990) は原型言語 (Protolanguage) という概念を提示している. これは, 現在のような高度な人間言語能力が発現する以前に, 人間の祖先にあたる生物が用いていたと考えられる, より原始的な言語能力を意味する用語だ.
進化上のシナリオとして原型言語を想定することは妥当であると言えるが, 原型言語が実際に用いられていたのか, また, 進化史においてどの時代まで, どのような形で存在していたのかは依然として不明である.
ミニマリスト・プログラムの観点から考えると, 原型言語はMergeが発現する以前の段階の言語形態と位置付けることができるだろう.
Bickerton (1990) は, 原型言語を考察するための手がかりとして以下の4つを挙げている:
- ビジン・クレオール
- 幼児の未発達な文法
- 失文法症患者など病理学的な状態における文法
- 動物コミュニケーション
これらは確かに原型言語の理解に役立つ示唆を与えるかもしれない. しかし, 他方で, これらの手がかりがそのまま原型言語そのものを示しているわけではない点には注意が必要である.
参考文献
- Bickerton, D. (1990). Language and species. University of Chicago Press.
- 畠山雄二. (2017). 最新理論言語学用語事典.