挿入される Do
英語では疑問文や否定文等で, 平叙文の際には存在していなかった(表面上確認できない)はずの Do が挿入されることがある. 例えば, 下記のように対比ができる.
- 否定文: 例 She does not know (正) vs. She not knows (誤).
これは平叙文では She knows であった文が否定文になるときには, 単純に not を挿入するだけではなく助動詞の do (does) も挿入されなければ適格な文にならないことを示している.
こういった現象は Do-support と呼ばれる.
Do-support からは様々な言語現象の分析が可能になるが, 1 つの例としては, 統語構造上は時制というものが独立しているという仮説を支持することであろう.
具体的に言えば, 時制要素 (Tense) は動詞とは別個に統語構造上に位置しており, T (時制) と動詞の結合が形態的に処理される場合には, 両者は隣接している必要がある. しかし, 否定詞 not が間に割り込むことでこの隣接が妨げられると, 形態的結合 (morphological merger) が不可能になる. このとき, 時制要素は単独では音韻的に実現できないため, do のような語を挿入して時制の発音を支える必要が生じる. この補助的な語が「助動詞 do」である.
参考文献
- 斎藤衛. 生成統語論の成果と課題: 極小主義アプローチと比較統語論.(2024)