主要部移動


以前の投稿で, 人間の言語には移動と呼ばれる現象が見られることに触れた.

今回は, その中でもHead-movement(主要部移動)と呼ばれる現象を見ていく. 主要部移動とは, 動詞が時制辞へ移動する(V-to-T)など, 句の主要部である語(X^0)が別の主要部へ移動・付加される操作のことである.

この主要部移動は生成文法の枠組み内では適切に定式化できず, 様々な理論的問題を引き起こす「不正な (illegitimate)」操作であると考えられてきた. これに対してChomsky(2021)はこの操作をI-言語の計算から完全に排除する提案を行う. 主要部移動が担ってきた役割は, I-言語の構造(例: VとTが分離している)を, 表出システムの要求に合わせて形態的に一体化させる, 表出部門の操作 AMALGAMATE によって代替されるべきであると主張している. I-言語レベルではVとTは分離したままであり, 意味解釈にはそれで十分である. 形態的なV-Tの融合は, 音声を生成する段階で起きる, より表層的な現象と見なされる.

これは非常に面白い提案であり, まさにミニマルな方向への理論的な変遷と言えるであろう.

参考文献

  • Chomsky, N. (2021). Minimalism: Where are we now, and where can we hope to go. Gengo Kenkyu (Journal of the Linguistic Society of Japan), 160, 1-41.

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