非顕在的移動


ヒトの言語には移動現象が見られる. 本稿では, その中でもcovert movement (非顕在的移動) というものについて解説する. covert movementは文の構造内で言語要素がある位置から別の位置へ移動する統語操作のうち, 発音には反映されない(見えない)移動のことを指す. この移動は, 文の解釈を決定する抽象的な統語レベルであるLF (Logical Form / 論理形式) で起こると考えられている. そのため, 文の表面的な語順だけでは説明できない意味解釈, 特に量化子や疑問詞の作用域 (スコープ) の曖昧さの説明を可能にする.

具体例として, Quantifier Raising (量化子の上昇) などがある. 例文1を検討する.

  1. Chris thinks Kim likes everyone.

この文は2通りに解釈できる.

  • クリスは「キムがみんなを好きだ」と思っている.
  • みんな各々について, クリスは「キムがその人を好きだ」と思っている.

後者の解釈は, everyoneがLFで文頭 (上位節) までcovert movementを行い, 文全体にスコープを及ぼした結果だと説明される.

参考文献

  • Pollard, C. (2011). Covert movement in logical grammar. In C. Retoré & S. Pogodalla (Eds.), Logic and Grammar: Essays Dedicated to Alain Lecomte on the Occasion of His 60th Birthday (pp. 17-40). Springer Berlin Heidelberg.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です