改変禁止条件
以前の投稿でフェイズというものについて見た. 今回はここから導き出される改変禁止条件 (No-Tampering Condition; NTC) というものを見ていく.
Chomsky (2008) では以下のように述べられている.
A natural requirement for efficient computation is a “no-tampering condition”(NTC): Merge of X and Y leaves the two SOs unchanged.
(Chomsky, 2008, p. 138)
ここから分かるように改変禁止条件とは, 効率的な計算のための自然な要請であり, 併合操作が併合される要素XとYの内部構造を改変しない, という原理である.
NTCに従うと, 併合はXやYを分解したり, 新たな素性を付け加えたりすることはない. この条件を厳密に適用すると, 内的併合 (IM), すなわち移動は, 移動元の要素を削除したり痕跡 (trace) で置き換えたりするのではなく, 元の位置にコピー (copy)を残す操作として自然に導かれる(移動のコピー理論). つまり, IMは要素を「動かす」のではなく, 「再併合 (remerge)」する操作であり, その結果として同一要素のコピーが派生構造内に複数存在することになる.
参考文献
- Chomsky, N. (2008). On phases. In R. Freidin, C. P. Otero, & M. L. Zubizarreta (Eds.), Foundational issues in linguistic theory: Essays in honor of Jean-Roger Vergnaud (pp. 133-186). MIT Press.