異なる位置での解釈


人間の言語には, 他の動物には見られない様々な特性が含まれている. 転移(displacement)もその一つである. 転移は, 発話された文の中で, 要素が音声として解釈される位置と, 意味として解釈される位置が異なるという特性である. 例えば, 次のような文を見てみる.

  1. Mary was invited (Mary)
  2. おもちゃを山田が(おもちゃを)作った.

生成文法の伝統的な分析に従うと, これらの例では, もともと括弧内にあった単語が, 音声として処理される際に文頭へ移動したと考えられる. つまり, 意味の解釈では単語は括弧内の位置に存在していたが, 音声の解釈ではその単語が文頭に来るという異なる位置で解釈が行われる. これが転移という現象である.

この転移は, 人間の自然言語に幅広く観察される現象であり, 他の動物には見られない, 人間言語独自の特徴として捉えられている. 伝統的な生成文法の分析では, これらの現象は「移動」として扱われてきたが, 後期のミニマリストプログラムでは, この「移動」自体が併合(Merge)の一形態と捉えられ, 内的併合(internal Merge)として扱われるようになった.

参考文献

  • 畠山雄二.(2019). 理論言語学史
  • 原口庄輔, & 中村捷. (2016). 増補版 チョムスキー理論辞典. 東京: 研究社出版.

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