虚辞


日本語話者が英語を学習する際, 直感的に理解しにくいものの一つに, 次のような文における it や there がある.

  1. It is sunny today.
  2. There is a pen on the table.

これらは Expletive (虚辞) と呼ばれる. 今回はこの虚辞について整理してみよう.

虚辞とは, 統語構造上は名詞句として主語などの位置を占めるが, 意味上の指示対象を持たず, いかなるθ役割も付与されない要素である. 前述の it や there がその代表例であり, 特に it は天候表現や一部の構文で典型的に現れる. 「It is raining.」において it が何を指すかを問われると回答に窮するが, これは it が実世界の特定対象を指示しているのではなく, 単に TP の Spec (指定部) を埋めるために挿入されているからである.

X-bar 理論では, 動詞の項構造はθグリッドとして語彙に保存されており, 各述語はどのようなθ役割をいくつ要求するかが規定されている. θ基準は「各項は一つだけθ役割を持ち, 各θ役割は一つだけ項に割り当てられる」と要求するが, 虚辞はこの原理に対して例外的に振る舞う. 天候動詞 rain などはθグリッドが空であり, 本来なら主語位置を埋める DP にθ役割が与えられないことになる. この問題を処理するために, 理論上は「虚辞の挿入規則」が X-bar による構造生成とθ基準の適用の後段で働き, その後に拡大投射原理 (EPP) が「すべての節は主語を持たなければならない」と要求するという順序が想定される.

参考文献

  • Carnie, A. (2021). Syntax: A generative introduction (4th ed.). John Wiley & Sons.

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