投稿者: 
階層を作らない集合形成
生成文法（とりわけ最新のミニマリスト・プログラム）では, 2つの項から新たな階層構造を作り出すMergeという操作を唯一の操作として仮定し, 理論構築を進めてきた. しかし, 近年では, このMergeのみ（Merge-only）の仮説において少々行き詰まりがあることは認めざるを得ないであろう. 例えば, その代表例が等位構造の説明である. Mergeは2つの項から階層構造を導き出すが, 等位構造を見ていると, 3つ以上の要素が並列な構造を持って集合を形成しているように思える.
例えば, 次の文を考えてみる.
- Ishiyama, Endo, and Kawashima go for dinner.
これは石山と遠藤と川島が夕食に行ったという文であるが, 夕食に行ったメンバーの語彙を自由に入れ替えることが可能であり, なおかつこれらの要素は3つで1つの集合のような振る舞いを行う. つまり2つの項からの階層構造とは異なる振る舞いを見せると考えられる.
こういった事象に対して, 新たに導入されたのがFormSetという概念である.
Fong & Oishi (2025)の一節を引用しよう.
Although Merge is the simplest operation that provides for interpretable struc-tured expressions, Chomsky (2021; 2024) argues that a distinct kind of set for-mation operation, FormSet (FS), is also necessary to account for unbounded unstructured sequences (UUS) such as (3a–b).
(Fong & Oishi, 2025, p. 3)
この一節に示されているように, FormSetは, 非階層的で非構造的なシークエンスであると考えられる.
参考文献
- Fong, S., & Oishi, M. (2025). On the nature of FormSet. Linguistic Variation.