発声器官の異なる言語の等位構造


以前の投稿では, 等位構造を産出する際に意味的な対称性を有する一方で, 音韻的には非対称性を持つという点をまとめた.
音声言語においては, 発声器官として主に口を用いて音声を産出する. このため, 一度に発声可能な音素には限界があり, 結果として順序処理を経て線形的な形式で表出せざるを得ず, 音韻的な非対称性が不可避となる.

他方で, 手話言語はどのような構造をとるのだろうか. 手話言語では, 口ではなく手や顔の頷きなどを用いて表現がなされる. このことは, 原理的には利き手, 非利き手, そして頷きという三つの異なる調音要素を同時に表現できる可能性を示唆する. よって, 音韻的な非対称性を克服しうると考えることができる.

この発想に基づいた研究として, Asada (2019) がある. 当該研究では, 手話言語が理論的には三つの要素を同時に表示可能であることを前提としつつも, 実際にはそのような同時表現は非文法的とされ, 文法的な表現を産出するには非対称的な順序をもって一方の要素を先に音韻化する必要があることが報告されている.

(20) a. * 利き手:  IX₃  (_hn)  来る.
     非利き手: IX

   b. * 利き手:  IX₂  (_hn)  来る.
     非利き手: IX₃

(21) a.  利き手:  IX₃  hn  (hn)  IX₂  来る.
   b.  利き手:  IX₂  hn  (hn)  IX₃  来る.

    ‘彼とあなた(あなたと彼)が来る.’

Asada (2019)

表記の都合上(_hn)の部分のみ改変

この結果は, 音韻的な非対称性が単なる音韻的制約の反映ではなく, 統語構造の産出過程に由来するものであることを示唆しており, 非常に興味深いものである.

参考文献

  • 浅田裕子. (2019). 日本手話における等位接続の特性 (1) 等位接続の同時性における非対称分析. 手話学研究, 28(1), 20-30.

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