言語表現と排除原理
以前の投稿で競争的排除原理について触れた. 改めて簡単に説明すると, 同様の生態を持つ2つの種が共存することは難しく, 最終的には一方が生き残るというものである. Tanaka (2018, p.176) はこの原理 (引用元では「相互排除の法則」と表現されている) を言語にも適用できることを示している.
Richards (2010: 5)はこの条件を“If a linearization statement <a, a> is generated, the derivation crashes at SM (because it is unpronounceable)”のように定義している。7.1節の(38)に関連して述べた最小探索に基づくラベリングも、これに倣えば “If an internal-ization statement {a, a} is generated, the derivation crashes at CI (because it is uninterpretable)””のように内在化にかかる条件として定義でき、要は同じ要素を無駄に繰り返す [[自由・自由]党],[[三菱・三菱・三菱]銀行]のような表現は意味不明で、外在化でも内在化でも解釈不能だということである。
(Tanaka 2018,pp176)
これに基づけば, ミニマリスト・プログラムにおいて想定される第3要因が競争的排除原理に該当し, なぜヒトの言語が2つの同一要素を解釈できないのかについて一定の説明を与える. さらに, この理由を言語外の要因に求めることが可能である点で, 意義深い仮説と考えられる.
参考文献
- Richards, N. (2010). Uttering trees. Linguistic Inquiry Monograph/MIT Press.
- 遊佐典昭(編)、杉崎鉱司、小野 創、藤田耕司、田中伸一、池内正幸、谷 明信、尾崎久男、米倉 綽. (シリーズ監修 西原哲雄, 福田稔, 早瀬尚子, 谷口一美). (2018). 言語の獲得・進化・変化―心理言語学、進化言語学、歴史言語学 (言語研究と言語学の進展シリーズ3). 開拓社.