普遍文法の立ち位置の変化
チョムスキーの生成文法はその理念から人間の言語の普遍性を探求してきており、その普遍的な文法として普遍文法を想定していた.言い換えるならば、生成文法の目的の1つは、この普遍文法の内容を解明することであった.
他方、最新のミニマリストプログラムでは、そういった言語機構だけではなく、その言語機構の起源と進化系統発生の問題が重要な課題として現れている.
ここに対してFujita (2007)が重要な指摘をしており、その1節を引用したい.
筆者は言語獲得の論理的問題に倣い, 言語の起源・進化にまつわる問題を 「言語進化の論理的問題」 (Logical Problem of Language Evolution)と呼ぶが, 問題の深刻さは, こちらのほうが飛躍的に大きい. ここでは, 普遍文法はすでに説明装置ではなく, その成立と特性が生物進化の観点から説明されるべき被説明項に転化するのであるが, その説明は, 言語が種固有・領域固有であればあるほど,困難なものとなる.
( Fujita, 2007)
私個人がここで重要だと考えるのは、不変文法が非説明事項に転化すると言う部分である。つまり普遍文法の研究上の立ち位置が変化しているのである。この背景を踏まえるとミニマリストプログラムと、それ以前の理論との大きな隔たりを留意しながら、研究を進めなければならないだろう。
参考文献
- Fujita, K. (2007). 変化を伴う由来-生成文法による言語の普遍と多様の解読. Viva Origino, 35(4), 136–147.