ミニマリスト・プログラムによって可能になったもの.


生成文法の理論はその前提が,人間の言語能力は生得的な能力であるという過程に基づいていることから,言語能力の生物学的な基盤,ひいては進化上,どういった形でこの基盤を獲得したのかと言う壮大な問いも,研究の射程に入れなければならない.

しかし,ミニマリスト・プログラムより前の生成文法の理論では,様々な言語現象を説明できるようになる一方で理論が複雑化し,考慮すべき項目も多く,これらすべてが人間に生得的に備わっているのか,これら全てに対して生物的な基盤など見つけられるんだろうかといった問題が生じていた.

それに対して,ミニマリスト・プログラムは人間の言語能力をMerge(併合)という1要素に絞り込むことで,検討事項を大幅に縮小し,言語進化の問題,もしくは言語の起源の問題をMergeの起源の問題へと変換することを可能にした点で大きい方針転換だったと言えるだろう.

この転換により,理論の内容を,他の分野の研究者とも共有することが容易になり,言語学の観点を加味した学際的な研究が可能になったと言える.

他方,ミニマリスト・プログラムは言語能力をMergeに絞り込んだため,新たにthe third factor の考慮が必要になった.

参考文献

  • 遊佐典昭(編),杉崎鉱司,小野 創,藤田耕司,田中伸一,池内正幸,谷 明信,尾崎久男,米倉 綽. (シリーズ監修 西原哲雄, 福田稔, 早瀬尚子, 谷口一美). (2018). 言語の獲得・進化・変化―心理言語学,進化言語学,歴史言語学 (言語研究と言語学の進展シリーズ3). 開拓社.
  • 原口庄輔, & 中村捷. (2016). 増補版 チョムスキー理論辞典. 東京: 研究社出版.

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