語彙という構造物に対する問い
以前の投稿でlexicalism (語彙主義)についてまとめた.
語彙主義は簡単にまとめれば, 語彙部門という部門を仮定して, 語の形成はその部門で行われるとする立場である. この語彙主義に対して, Fujita (2018) は根本的な問題点を端的に指摘している.
語彙情報がそのまま統語構造上に投射されるという意味で「投射原理(Projection Principle)」なるものも提案されたが, こういった語彙主義では必要な語彙エントリーが複雑化することに加え, そもそもその語彙情報はどこから生じたのかが大きな問題となる.
(Fujita, 2018, p. 150)
理論言語学の究極的な目標は, 我々人間の言語処理を記述できる理論モデルを構築することである. しかし, このアプローチは鶏が先か卵が先かというような, 非常に複雑な問題を含むことがある. これは統語論で説明できないことを語彙部門で説明するという説明部門の転換であり, あくまで説明が必要なことに変わりはない. Fujita (2018) の指摘はその点を再度認識させてくれるものであり, 非常に重要である.
参考文献
- 遊佐典昭(編),杉崎鉱司,小野 創,藤田耕司,田中伸一,池内正幸,谷 明信,尾崎久男,米倉 綽. (シリーズ監修 西原哲雄, 福田稔, 早瀬尚子, 谷口一美). (2018). 言語の獲得・進化・変化―心理言語学,進化言語学,歴史言語学 (言語研究と言語学の進展シリーズ3). 開拓社.