言語理論構築と物理学


理論言語学のなすべき仕事は, 人間が用いる自然言語に対して妥当な説明力を持った理論を構築することであると言える.

そのために様々な試みがなされているが, 言語学を専門としない人々からすると, あまりに特殊すぎてイメージすることが難しかったり, 特殊な状況を想定しすぎているように感じることもありそうである.

しかし, こういった戸惑いに対して私としては非常にしっくりくる説明を学んだ.

科学においては, 証拠として使われる現象が自然な条件の下で自動的に出現せねばならぬという要請はない. 素粒子物理学の主要な発見は, 次々に力を増していく(そして費用も増していく)加速器を使って行う超複雑な実験から生まれてきた. このような分野で進歩を遂げるには, 極限的な状況を研究する必要がある. 同じように, 言語を理解するためには, 極限的な例を研究する必要がある場合がある.

(Imai et al., 2019)

理論としての研究の難しいところは, 一般的な経験や直感からはイメージしづらいものを想定しなければならない点であろう. 例えば, アインシュタインの相対性理論は光の速度が一定であり, 光の速度に近づくと時間の方が遅くなると主張した. ところが, 我々の日常生活でその類の現象を想像することは難しい. 同様に言語理論に関しても, 我々の日常生活では想像が難しい部分がある. しかしそれは理論の妥当性を損なうものであるとは必ずしも限らない.

参考文献

  • 今井, 中島, 西山 & 外池. (2019). チョムスキーの言語理論: その出発点から最新理論まで.

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