グローバル化が叫ばれている昨今、日本を出て海外に就職・留学する人はますます増加している。グローバル化という潮流の是非はともかくとして、他国への関心が高まっているのは間違いない。かくいう私もイギリス留学の真っ只中である。
しかし当然ながら、海外といっても世界には沢山の国がある。参考に外務省のホームページを見るとこういう記載がある。
世界の国の数:196か国です。これは,現在,日本が承認している国の数である195か国に日本を加えた数です。最近では、ニウエ(2015年5月15日),南スーダン(2011年7月9日)及びクック(2011年3月25日)を承認しました。 (2018年10月 外務省ホームページより )
国が変われば文化も歴史も人種も違う。しかし、これだけの数の国についてしっかり学ぼうと思えば費用も時間も膨大なものになってしまうだろう。かといって、表面を撫でただけでは浅い知識にとどまってしまう。なんとかこのバランスを取れる方法は無いだろうかと私は考えていた。
そこで考えついた方法が、その国の憲法を学ぶというものである。
なぜ憲法を学ぶことが役に立つのか。理由は2つある。
1つ目は、憲法というのはその国の最高法規であるからだ。それは言い換えれば、その国がどういう思想を大切にしているかを表しているということである。そして、憲法は全ての国民が学校で習うことを義務化されている。つまり、憲法をインストールされていない国民はいないので、その国の国民のアイデンティの一部に必ずなるのである。さらに当然ながら、この憲法に基づいて近代国家というものは建設されている。
例えば、日本国憲法第一条は下記である。
〔第1条〕
天皇は
日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって
この地位は
主権の存する日本国民の総意に基づく。 (日本国憲法より)
この条文が第一条ということは、日本という国はまず天皇を象徴であるという思想を大切にしているということが読み取れる。さらに、我々日本人の中で天皇は1つのアイデンティティとして共有されているのではないだろうか。そして、我が国の体制において天皇は非常に重要な役割を担っている(内閣総理大臣の任命など)。
もちろん、その国の国民が全員その憲法に賛成しているかといえばそんなことはない。しかし、インストールされているのは間違いないと思う。
このことから、憲法というのはその国家を理解する上で大変役立つであろう。
もう1つの理由は、気軽にアクセスできる点にある。憲法に対して「気軽」などというと少々失礼なような気もするが、実際あなたがいま使っているスマホに [国名 憲法] で検索すればたいていはヒットするだろう。英語で検索すれば確実にヒットする。そして、当然無料である。
もちろん憲法の全文について学ぶことは難しい。しかし、冒頭の10条(または10項)ほどなら読む時間は取れるのではないだろうか?冒頭の10条はその憲法のエッセンスのようなものなので、10条でもとりあえず良いのではないだろうか。そして、そこからさらに知識を深めて行くというのも効果的な学習になるのと思う。
例としてドイツ憲法を見てみよう。
実際に [Germany Constitution] で検索をかけてみた。
すると2つ目にPDFファイルで憲法を見つけることができた。
さらにその中の冒頭を見てみよう。
Article 1
[Human dignity – Human rights – Legally binding force of basic rights]
- (1) Human dignity shall be inviolable. To respect and protect it shall be the duty of all state authority.
- (2) The German people therefore acknowledge inviolable and inalienable human rights as the basis of every community, of peace and of justice in the world.
- (3) The following basic rights shall bind the legislature, the executive and the judiciary as directly applicable law.
Basic Law for the Federal Republic of Germanyより
第一条の三項までを抜き出してきた。すでに、日本との違いが感じられるだろう。ドイツはHuman dignityを第一に考えていることがわかる。では、なぜドイツはHuman dignityを第一にするのかを考える。それは第二次世界での経験があるからではないだろうか?ナチス政権下においてユダヤ人に尊厳などはなく虐殺が繰り返されたことは周知の通りである。過去の過ちを再び犯さないよう、ドイツは人間の尊厳を何よりも重視すると考えれば納得がいくのではないだろうか。
このように、憲法には気軽にアクセスが可能だ。そして憲法からはその国の思想が学べる。さらにそこから背景などを考えて学びを深めていくこともできる。
憲法をめぐっての議論も盛んに行われる昨今において、私が提案するこの方法に違和感を覚える人も少なくないかもしれないが、私はこの方法は他国を学ぶ上で役に立つのではないかと考えている。