名詞と代名詞の指示対象
ヒトの言語は日常の会話の中では, 気づかなくとも, 冷静に考えると不思議な振る舞いを示すものである. 名詞と代名詞の関係性もその一つである.
Saito (2024) の例を引用して考えてみる.
a. John loves his mother. (John = his, 可)
b. He loves John’s mother. (He = John, 不可)
c. John’s mother loves him. (John = him, 可)
d. His mother loves John. (His = John, 可)
(Saito 2024:9)
これを冷静にみてみると, (4a), (4c), (4d) の文では代名詞が先行詞として John を指す解釈が可能であるのに対し, (4b) ではその解釈が成立しない. 加えて, (4b) と (4c) の比較に注目すると, この二つの文は主語と目的語の配置を入れ替えただけの違いである. しかし, その結果, John と代名詞が同一の対象を指す解釈が許されるのは (4c) だけとなっており, (4b) では許されないことが分かる.
このように, 日常ではなんとなく使っている名詞と代名詞においても, その振る舞いには非常に興味深い点が存在する.
参考文献
- 斎藤衛. 生成統語論の成果と課題: 極小主義アプローチと比較統語論.(2024)