コミュニケーションの閾値


生成文法, 特にミニマリスト・プログラムでは, マージの発生前と発生後で言語について根本的な差異が生じたと考え, 漸進的な進化ではなく, マージという一点の発現における跳躍的な進化を仮定することが一般的である.

他方でコミュニケーションはどうであろうか. 次の一節を見てみよう.

Scott-Phillips does not think ostensive-inferential communication evolved incrementally from code-based communication, though once agents communicate by interpreting one another, the scope, efficiency and precision of ostensive inferential communication can and did expand incrementally. Instead, on this picture, hominin theory of mind and inferential capacities expanded incrementally. Once they reached a threshold, and only when they reached a threshold, ostensive-inferential communication became possible, and with it, its great flexibility.

(Sterelny, 2017, p. 822)

この一節では, 心の理論や推論能力が漸進的に拡大し, ある閾値に到達した時に初めて, 他者を解釈することによって行われるコミュニケーション能力が可能になったとまとめられている. さらに, 一度そのコミュニケーション能力が成立すれば, その後の部分は漸進的に拡大できると考えられている.

このような能力が成立した後に, 漸進的な進化を遂げるというのは, 現実的なシナリオとしては十分起こり得るだろうし, とても興味深い発想である. また, その能力が発現したことによって進化の方向性が変わり, その道を歩んでいくと, 自ずとより漸進的な進化を遂げると考えた方が, 個人的にはしっくりくる部分がある.

参考文献

  • Sterelny, K. (2017). From code to speaker meaning. Biology & Philosophy, 32(6), 819–838. https://doi.org/10.1007/s10539-017-9597-8

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