言語学って何するの?というお話です.

私は言語学を大学院で勉強しています.初対面の方や久々に会った友達にそのことを伝えたときのリアクションは,多くの場合3通りに分けられます.皆さんのリアクションは何番目でしょうか?

1.「へえ,じゃあ何ヶ国語も喋れるの?」
2.「へえ,言語学って何やるの?」
3.「へえ,ところでメシどうする?」

3番目は俗にいうスルーです.「興味ゼロか!」とツッコミます.
なので,3番目のリアクションだった方は,この投稿はここで終わりで大丈夫です.美味しいご飯屋さんを一緒に探しましょう笑.

この投稿は1番か2番だった方に向けて書いています.1番か2番の方は,ちょっとは興味を持ってくれている方たちのはずです.(ですよね!?)
そんな「ちょっとだけ興味あるけど,専門用語とかやめてね」という方に,言語学はどういうことをするのかということをお話ししたいと思います.
(専門家の方へ: 分かりやすさを重視するための言葉選びをして書いたので,細かな表現の是非については目をつぶって頂けると幸いです.もちろん,内容自体の不備に関する指摘はお願いいたします.)

何ヶ国語も喋れません!!

さて,まず一番多い誤解から解いていきたいと思います.
先ほどの「へえ,じゃあ何ヶ国語も喋れるの?」という方々...残念ながら喋れません!!!

これ多分一番多い誤解です.「言語学って色んな言語(英語とかフランス語とか中国語とか)を学んで,たくさんの国の言葉を喋れるようになるために勉強しているんでしょう?」と思われている方,それは誤解です!!!
確かに,研究していく中で色んな言語に触れる機会はありますし,色んな言語を学ぶのが好きで気がついたら言語学をやっていたという方もいます.しかし,だからといって「10ヶ国語話せます!キリッ」というわけではありません.

そういった方々はおそらく,語学 と 言語学 をごちゃまぜに捉えてしまっているのだと思います.
語学留学や語学勉強など,皆さんの周りにも語学という言葉がつくものはたくさんあります.例えば,アメリカに英語の語学留学をする方の場合,その最終的な目的はネイティブの人みたいに英語がペラペラになることなはずです.
つまり,語学の目的は,その言語をネイティブと同じレベルで扱えるようになることといっていいでしょう.

しかし,言語学の場合は違います.言語学の目的は,言語の構造を科学的に研究して明らかにしていくことです.

「それってなにが違うの?」「結局,言語学ってなにやるの?」と思う方も多いと思うので,ここで例を挙げて説明してみたいと思います.

言語学って何やるの?

中学校の英語の授業を思い出してみてください.
普通は英語の動詞を過去形・過去分詞形にするには-edをつけますね,look-looked-looked, listen-listened-listened などがそうですね.
しかし, 不規則変化動詞というものがあったことを覚えていますか?make-made-madeやtake-took-takenというあれです.懐かしいですね.懸命に覚えさせられた記憶がある方も多いのでは?
この中でもgo-went-goneという馴染み深い不規則変化動詞を使って,語学言語学の違いを説明していきます.

まず,語学の場合
語学の場合の目的はネイティブと同じレベルで扱えるようになることでしたね.なので,語学の時にはgo-went-goneに対して次のように向き合います.
例えば,テストで
I _____ to school yesterday.
という問題が出されたら,皆さんは I goed to school yesterday ではなく I went to school yesterday. と答えるように教わります.そして,それを会話でもメールでも,常に間違えないようになるまで練習します.その手段として語学留学などをするわけですね.英語が使われる環境に身を置いて,自分の中に「goedではなくwentだ」ということを叩き込んで,ネイティブのように使えることを目指すのです.

しかし,ここでふと疑問が湧きませんか?「なんでgoの過去形ってwentなの?」
これを考えるのが言語学です!!!
「なんでgo-went-goneって言うんだろう?」「なんでgo-goed-goneではだめなんだろう?」これが言語学でのgo-went-goneに対する向き合い方です.

冷静に考えてみれば謎じゃないですか?go-goed-goneの方が自然な感じですよね?wentの存在は例えるなら,野菜コーナーに1匹だけサンマが置かれているような状況です.
さらにネイティブに聞いてみると,意外かもしれませんが「goedでも言いたいことは分かるよ」と言っています.実は面白いことに,子供が言語を習得している様子を観察していると,ネイティブの子供達でさえ,I goed to~と言う時期が出現することもあるということが研究で示されてるんです.そしてその後,ちゃんとI went to~と言うようになるそうです.

では,なぜgo-went-goneというのでしょうか.実はwentって別の動詞”wend”という語の過去形なんです.wendの意味は「進む」とか「おもむく」とか,単純に「行く」の意味で使われもしたそうです.この動詞の過去形がgoの過去形として定着してしまったんです.これがgo-went-goneの理由です.
しかし,そうすると「なんで,そんなことが起こったの?」「なんで,それが定着したの?」「goedの方が自然な感じがするのに,なんでgoedにしないの?」「子供がgoedからwentに直すのはなんで?」という別の疑問も生まれてくるはずです.(明確な答えは今の所ありません.)

こういったことを考えてみると,実は言語って不思議なことがたくさんあることが分かります.さらに,言語って色々な要素(音声,文法,言葉の意味,言語の獲得など)から構成されていることも分かります.なので実は言語学と一言で言っても色々あるんですよ.音声の要素から言語を考える音声学.文法について考える統語論.意味を考える意味論.どうやって言語を獲得しているかなどについて考える心理言語学.他にも色々な言語学があります.

しかし,共通していることは言語の構造を科学的に研究して明らかにしていくことです.それが言語学です.

 

 

ここまで読んでいただいてありがとうございました.
「へえ,じゃあ何ヶ国語も喋れるの?」「へえ,言語学って何やるの?」と思っていた方々には,言語学がどういうものなのか分かって頂けたのではと思います.もし,「へえ,面白そうだね」と思って頂けたらとても嬉しいです.「へえ,ところでメシどうする?」と言っていた方々は,食後の休憩にこの記事を読んでいただけると嬉しいです.

 

この記事のための参考文献もリンクしておきます.

参考文献

 

 

http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2009-06-10-1.html

 

 

 

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