在野

1 公職に就かないで民間にいること。「在野の人材」⇔在朝。

2 与党に対して、野党の立場にあること。「在野党」

私は大学に進学し学士を取得し、次に大学院に進学し修士号を取得した。そして、いずれは博士に進学したいと考えている。研究をしたい、研究者になりたいと考えている者にとって、これは極めて一般的な進路であると言えよう。

しかし、研究というものは大学に行かなければ出来ないのであろうか?諸般の事情で大学に行けない人には研究をする権利はないのであろうか?

断じて、否である。

その証左の記録としてこの本を薦めたい。

この本は、大学に所属せず、それどころか学位さえ持っていない人々がいかに研究をし、また功績を残したかをまとめたものである。

日本で、いや世界でも学業の道に全てを捧げるという選択はとてもリスキーな行為であると言える。実学から遠ざかれば尚更だ。

学費は年々上昇を続ける一方で、一般家庭の収入は低下し、奨学金やアルバイト漬け生活はもはや前提となりつつある(この状況を時代の流れと受け入れることに関して私は断じて反対であるが)。また、未だ新卒至上主義は健在であり年を取れば取るほど、就職の難易度は上がっていく。

もちろん研究内容にもよるが、内容によっては実社会にて無用の長物になる可能性が高い研究内容に(幸か不幸か)惹かれてしまう人々もいる。

そうした人々にとって博士課程に進学してまで、研究を続けると言うのは文字通り人生を懸けることを意味する。そこに迷いが生じることを責められるいわれは無い。

また、そこに迷いがなかったとしても現実問題としてお金の問題がある。奨学金などもあるとはいえ、負担が小さいものではない。

そのオルタナティブとして在野研究というものがある。学位や大学によらずに、自分自身で研究を続けていく方法だ。

その方法を請おうと、今までの在野の先人たちを見ていくのが、この本だ。

過去にこうして、偉大な業績を残してきた人々がいると思うだけで、とても勇気が湧くものである。それに加えて、至る所に在野研究の心得という形で参考になる言葉がまとめられていて大変役に立つ。いくつか、引用して紹介する。

在野研究の心得その五

  地位を過剰に意識するな。

在野研究の心得その一五

  在野では独断が先行しやすい。

在野研究の心得その二一

  在野に向き不向きの学問がある。

在野研究の心得その三四

  専門領域に囚われるな。

在野研究の心得その四〇

  この世界には、いくつもの〈あがき〉方があるじゃないか。

これからのエリック・ホッファーのために 在野研究者の生と心得 Kindle版より引用

ここで気づくかもしれないが、この本は無批判に在野研究を勧めているわけではない。まだ大学で消耗してるの? みたいな内容ではない。やはり、在野であるということはアウトロー側であり、そのためにメインストリームなら不要であったはずの苦労も生まれる。何より、この本のあとがきにも書かれているが、筆者の方自身がバリバリの在野研究者であり、その苦労は計り知れない。私の想像ではあるが、この本の執筆を通して筆者自身も励まされていたのではないだろうか?

他方、在野だから持てるアドバンテージもまとまっている。この本には、本当に様々な領域の研究者が紹介されている。筆者自身が在野研究の心得その三四 専門領域に囚われるな。を見せつけているかのようだ。私も在野研究の心得その三三 羞恥心は研究者の天敵である。を理由に正直に白状するが紹介された研究者のほとんどは、この本を読む前には聞いたこともない人々であった。こうした人々をまとめてくれているだけでも、この本が行った仕事は尊重されるべきだと思う。

また、この本に出てくる偉人(?)たちはやはり偉人だけあって変人奇人の類も多い。紹介されるエピソードもイチイチ面白いので単純な読み物としても楽しめるだろう。

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