科学における理想化について


チョムスキーは自身の理論の中でその研究対象を下記のように述べている。

“Linguistic theory is concerned primarily with an ideal speaker-listener, in a completely homogeneous speech-community, who knows its language perfectly and is unaffected by such grammatically irrelevant conditions as memory limitations, distractions, shifts of attention and interest, and errors (random or characteristic) in applying his knowledge of the language in actual performance.”
Chomsky (1965)

言語理論は、主として、完全に等質的な言語共同体における理想的話者-聴者(idealspeaker-listener)を対象として取り扱う。理想的話者-聴者とは、自分の言語について完壁な知識を持ち、その言語についての知識を実際の言語運用において使用する際、記憶の限界であるとか、他のことに気が散っているとか、あるいは注意や関心の移り変わり、(側発的な、もしくは個人に特徴的な)誤りなどのような、文法そのものとは関連性のない諸条件に影響されない話者-聴者のことである。
福井 & 辻子 (2017)

科学的な研究をする際には、その事象を単純化すると言う手法がよく用いられる。

例えば、ガリレオが落下物の等加速度法を理論化した時、彼は風の抵抗や摩擦の作用を無いものとした。 つまり、彼はその目標の事柄を厳密に特定することで、その目標とは関連しない事柄が考慮から除外したと言うことである。

これは科学的な研究で、一般的に行われる理想化(Idealisation)と呼ばれる手法である。

チョムスキー以降の言語学は 自然科学として研究されているが 家語学が自然科学になれたのは、こういった理想化などの手法を積極的に取り入れたからこその結果である。

参考文献

  • 福井, & 辻子美保子. 統辞理論の諸相: 方法論序説.
  • Chomsky, N. (1965). Aspects of the Theory of Syntax. The MIT Press.
  • 今井, & 外池. (2019). チョムスキーの言語理論: その出発点から最新理論まで.

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