理想化の功罪


前回の投稿において、理想化(Idealisation)について概要をまとめた. 理想化とは、例えば落下物の運動を検討する際に、空気抵抗や摩擦といった要素を一時的に除外し、等加速度運動の法則にのみ焦点を当てる手法を指す. この手法は、物理学をはじめとする自然科学において極めて重要であり、複雑な現象を単純化することで、基礎的な法則を明らかにすることが可能となる.

一方で、誤った理想化を行うと、研究の焦点が大きく逸れる危険性があることも指摘されている. Imai et al. (2019) はこの点について次のように述べている.

もちろん、我々が選んだ理想化がもっとも成果を上げるものであるという保証はないし、意図と全く逆効果な結果を生み出さないという保証さえない。チョムスキーの言に「探究の道を、研究主題への方向からとんでもなく遠ざけてしまうような不合理な理想化が生じる危険がある:科学ではよく起こる障害だ」という下がある。

(Imai et al., 2019)

このように理想化は、研究を進める上で強力な手段であるが、その適用には十分に留意する必要がある. 理想化が有用であるためには、設定した条件が研究課題と整合していることを慎重に検証しながら進めるべきである. 着実な検討を重ねることで、理想化の有効性を最大限に引き出すことが可能となる.

参考文献

  • 今井, 中島, 西山 & 外池. (2019). チョムスキーの言語理論: その出発点から最新理論まで.

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