今回はGenerative Syntaxの授業で学んだことをまとめておきたいと思う。
Generative Syntaxでは、言語は人間の能力の一部として捉え、科学的手法によって研究可能としている。そこでSyntaxの目的は、我々人類の言語に見られる特徴、すなわち言葉の組み合わせによって意味を表現できるということを可能にしている無意識下でのルール・原則を解明しようというものである。
そのルールは我々の脳内にある。発話を理解すること・自分の考えを言葉にして発話することは脳の活動だからである。そして、それらは自然の現実世界での現象である。だから科学的なアプローチに基づいて研究する。
具体的に何を研究するのだろう。統語論の研究者と社会言語学者の違いを例に説明する。
北イングランドの方言の1つではこういう表現が観察できるそうだ。
That’s how the young’uns today gets away with allsorts.
young’unsはchildrenを意味する言葉だ。ここで問題なのは複数形の名詞が主語になっているのに、動詞に三単現のsがついていることだ。この問題について考える時を比較する。
統語論の研究者は、この方言の文法的に同意しているルールは何なのか?もし主語を young’unsの代わりにweにしたらどうなるのか?theyにしたらどうなるのか?この文を疑問文にするとどうなるのか? ということを研究する。
対して社会言語学者は、この表現はどういった人々によって使われるのか?どこで使われるのか?どういうシチュエーションで使われるのか? ということを研究する。
つまり、統語論の研究は文の構造(Syntactic Structure)を研究するのだ。
今回の授業では、1950年代にチョムスキーによって提唱された句構造規則を中心に学ぶ。
文の構造(Syntactic Structure)
言語表現というのは、構造(structure)を持っている。その構造は階層的な構造(hierarchic structure)をなしていて、文を作る基本である。文の意味というのは単語の持つ意味という機能と文の持つ意味を組みわせる機能によって作られる。文は単語の連なりであり、文の意味はそれらをどういう順番に組み合わせるかによって決まるということだ。そして、その組み合わせ方は階層的な構造によって定められる。その証拠の1つとして、文の曖昧さ(Ambiguity)があげられる。次の文を分析してみたい。
They expelled 15 refugees from Norway.
これは2通りの階層構造に分けられるために、2つ意味を持ってしまう曖昧な文だ。(NPなどの用語は最後にまとめて記載)
左側の構造は15 refugees from Norwayを1つの名詞句として考えている。ノルウェイから来た15人の難民を国外に退去させたという意味だ。
一方、右側の構造では15 refugeesとNorwayを別々の階層に分けている。だから、この構造では15人の難民をノルウェイから退去させたという意味になる。
このように、同じ文でも階層を分けると構造も変わり意味も変わることがわかる。つまり、意味は単語だけでなく構造にも依存しているのだ。
しかし、この分析自体は正しいのだろうか?分析の正しさを示すための方法はあるのだろうか?
ある。そのためにConstituency Testというものがある。
そもそも、脳が同様に言語を産出しているかを直接観察することはできない。仮に手術で頭を開いたとして、脳自体は観察できたとしても言語を観察できるということは無い。脳はブラックボックスなのだ。だから我々ができることは、そのブラックボックスに何を入れたら何が出てくるかを観察してブラックボックスの仕組みを理論づけるほかない。つまり、我々が観測できる事実というのは形式と意味の関係や文法的な正しさのみである。
なので、形式と意味の関係や文法的な正しさをテストすればいいのである。
3種類のConstituency Testをまとめておきたい。
The Substitution Test
このテストは、文の構成要素として働く単語のグループは1つの言葉に置き換えられるという性質を利用して行われる。例えば代名詞がある。下の文aを見てみよう。
a. The Belgian scientist who won the Nobel Prize at the age of 22 retired today.
この文はThe Belgian scientist who won the Nobel Prize at the age of 22をSheに置き換えることが可能である。置き換えた文がbである。
b. She retired today.
つまり、The Belgian scientist who won the Nobel Prize at the age of 22は1つの構成素として扱うことが可能だということがこのテストから分かる。他にもthe Nobel Prizeをitに置き換えることも可能だ。b2はそれを示している。
b2. The Belgian scientist who won it at the age of 22 retired today.
もしThe Belgian scientist who won the Nobel Prize at the age of 22のwon the Nobel Prize at the age of 22の部分だけをshe置き換えたらどうなるであろうか?その文がcである。
c. *The Belgian scientist who she retired today.
これは明らかに非文である。このことからwon the Nobel Prize at the age of 22をひとつの構成素として扱うことは出来ないことが分かる。
これがsubstitution testだ。
Coordination Test
andやbutと言った接続詞は文の構成素を特定するために役に立つ。なぜなら、構成素同士でなければ接続詞で結ばれないからである。さらに、接続詞で結ばれる構成素は同じ文法的範疇のものであることも分かる。下の文を考えよう。
a. John’s expose in The Guardian gave new hope to the government’s opponents.
この文は先ほどのsubstitution testでも検証が可能だ。例えば、 John’s expose in The Guardianをitに置き換えることができる。
b. It gave new hope to the government’s opponents.
加えて、coordination testでも検証してみよう。John’s expose in The Guardianに別の名詞句を加えるのである。
c. [John’s expose in The Guardian and the subsequent revelations] gave new hope to the government’s opponents.
cの文ではJohn’s expose in The Guardianが別の名詞句に接続されている。このことからこれは構成素であることが分かる。さらに別の種類の句を加えることもできる。
c1.(VP-coordination): John’s expose in The Guardian [gave new hope to the government’s opponents and put fear into minister’s hearts].
c2.(PP-coordination): John’s expose in The Guardian gave new hope [to the government’s opponents and to seekers of justice throughout the world].
逆に構成素を分断するように接続詞を使えば非文となる。
d. *John’s expose in The Guardian [gave new and renewed old] hope to the government’s opponents.
これがcoordination testである。
Movement test
最後にmovement testをまとめたい。構成素は文の中で移動(movement)が可能という性質に基づくテストだ。下の文を見てみよう。
a. John will leave a book on the table.
この文では例えば、下のように構成素を移動させることが可能だ。
b. On the table John will leave the table (but on the chair he will leave some paper).
c. The book John will leave on the table (but the letter he will put in the bin).
これはつまりon the tableやthe bookは構成素であることを示している。一方、先ほどと同じで構成素を分断してしまうと非文になってしまう。
d. *Book on, John will leave the table.
e. *On the John will leave the book table.
しかしながら、このmovement testは3つの中で1番信頼性が低い。なぜなら、movementは構成構造とは関係のない制約に左右されやすいからだ。
Phrase Structure rules
句構造規則を記す時のルールを示しておきたい。
S → NP (Aux) VP
これはSはNP Aux VPを含むという意味である。また、Auxは必須ではない。
PP→ P NP
VP→ V (NP) (PP)
NP→ (DET) N
Category | Example |
Noun | table, station,sincerity |
Preposition | at,on,in |
Adjective | green, intelligent,generous |
Verb | give, put,run,sleep,disturb |
Auxiliary | can, should,must |
Determent | the,a,this,those,several,my |
(POOLE p,22)
The Terms
Node
それぞれの構成素の塊
a dominants b (=a contains b)
Node aがNode bを支配している(含んでいる)状態。
a immediately dominants b (= a is b’s mother node=b is a’s daughter node)
Node a が直後のNode bを支配している状態。
a is a sister of b (=a and b have the same mother)
Node aとNode bの直前のNodeが同じ状態。
a c-commands b (constituent-command)
Node aとNode bが別のNodeであり、Node aはNode bを支配せず、Node bはNode aを支配していない。そして、Node aを支配している最初のNodeがNode bを支配している状態。
参考文献
Lecture Note
Syntactic Theory (Macmillan Modern Linguistics)
ピンバック: 学習ノート Generative Syntax Lecture2-1 | SY-Linguistics
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