変異体は孤独である。
言語と言うものは、 コミュニケーションのための道具だと思われがちである。 確かに、言語を介したコミュニケーションによって様々な情報が 集団内で共有できるようになった事は、人類の生存にとって非常に有益だったはずであるし、 人類という種のみが ここまで高度な文明を発達させることができたのは言語による高度なコミュニケーション無しには不可能であっただろう。
そういった背景から言語能力と言うのは、 コミュニケーションを目的として発生し進化してきたと捉えられることが多い。
しかし、ここで問題になるのが、孤独なミュータントと呼ばれる問題である。
進化と言うものを改めて考えてみたい。 進化とは集団内のある1個体が突然変異を起こし、 それが適応的であった場合にその形質が集団内で、少しずつ広がっていくと言う過程をたどる。
言語も同じように進化してきたのだとしたら、ある1個体が突然変異を起こし
その形質が適応的であったから拡散していくように進化したはずである。 しかし当然であるがコミュニケーションというのは1個体では成し得ない。コミュニケーションを実施するにはその能力を持った個体が最低2個体は必要である。
つまり、言語能力がコミュニケーションを目的として進化してきたと言う考え方は、最初の1個体(ミュータント)が孤独であるため受け入れがたいということである。
こうした観点から、言語は、コミュニケーションを目的としたのではなく、思考を目的として進化してきたのではないかとする考え方もある。
参考文献
- 藤田耕司. (2016). 生成文法と複雑系言語進化. 計測と制御, 53(9), 862-864.